↑member only

中性子産業利用推進協議会

〒319-1106
茨城県那珂郡東海村
白方162-1
いばらき量子ビーム研究センター D201
中性子産業利用推進協議会事務局
TEL:029-352-3934
FAX:029-352-3935
お問い合わせはこちら

カウンタ: 

エネルギー変換デバイスの高性能化に新たな道筋
― 液体のように振る舞う原子層が高い熱電性能の鍵に ―

熱電材料であるセレン化クロム銀(AgCrSe2)の中性子による全散乱実験と非弾性散乱実験を行い、Ag の1原子の厚みからなる液体層が超イオン伝導転移によって生じることにより低熱伝導を導いていることを明らかにしました。

エネルギー変換デバイスとして期待される熱電材料は、物質内部の温度差によって電流を生成し、逆に電流を流せば温度差を形成することができる物質で、発電機やクーラー、冷蔵庫などに使われています。排熱利用の切り札として熱電材料の高性能化が求められています。

熱電材料の高い性能は、熱起電力(ゼーベック係数)が大きく、電気伝導性が良く、かつ、熱伝導率が低いことで達成されます。今回、セレン化クロム銀(AgCrSe2)という層状化合物の高い熱電性能に着目して、その低熱伝導性の起源を中性子と放射光、計算機シミュレーションを駆使して調べました。

 エネルギー変換デバイスとして期待される熱電材料は、物質内部の温度差によって電流を生成し、逆に電流を流せば温度差を形成することができる物質で、発電機やクーラー、冷蔵庫などに使われています。排熱利用の切り札として熱電材料の高性能化が求められています。
 熱電材料の高い性能は、熱起電力(ゼーベック係数)が大きく、電気伝導性が良く、かつ、熱伝導率が低いことで達成されます。今回、セレン化クロム銀(AgCrSe2)という層状化合物の高い熱電性能に着目して、その低熱伝導性の起源を中性子と放射光、計算機シミュレーションを駆使して調べました。
 AgCrSe2は、図1に示すように、CrとSeからなる固い層とAg原子だけからなる層が交互に積層された構造をしています。低温ではAg原子は4個のSeからなる四面体の中心に固定されており、図で上向きの四面体と下向きの四面体の中心位置のどちらか半分を占有しています。面を共有する上向き四面体と下向き四面体の中心間距離はAgイオンの大きさよりはかなり短いため、同時に占有することはありません。温度上昇と共に、上向き四面体の中心位置(上向きサイト)のみを占有するドメインと下向きサイトを占有するドメインが共存すると考えられます。450K以上では、Agイオンは両サイトを拡散する超イオン伝導体へと転移します。熱電性能は一般に温度に比例して高くなりますが、この物質では超イオン伝導転移がさらに性能を後押ししています。
我々は、SPring-8の放射光と米国SNSのパルス中性子を用いたX線・中性子全散乱実験を行い、原子対相関関数(PDF)解析を行って、上記のような、Agイオンを可動イオンとする超イオン伝導性を確認しました。さらにJ-PARC MLFのBL14「AMATERAS」を用いて中性子非弾性散乱実験を行いました。

図2に非弾性散乱スペクトルを示します。150Kでは約3.2 meVを励起エネルギーとする横波のフォノンが観測されていますが、超イオン伝導転移後の520Kでは、この横波フォノンが消失しています。マクロな液体は圧縮波である縦波は伝搬しますが、横波は伝搬せず、むしろ、この性質が固体と液体の分かれ目になっています。この物質ではAgの1原子の厚みからなる液体層が、超イオン伝導転移によって生じることで、横波の伝搬を妨げ、その結果、低熱伝導を導いていることが分かりました。
 AgをCsやLiと置換した物質のフォノンを理論計算により比較し、重い元素ほどこの低励起エネルギーの横波モードに寄与することも明らかにし、マテリアルインフォマティクスを利用して、同じ構造を持ち得る物質の候補も探索しています。将来さらに熱電能の高い物質がこうした中から生まれるかも知れません。


エネルギー変換デバイスの高性能化に新たな道筋_fig.1.jpg

図1 AgCrSe2 の結晶構造

エネルギー変換デバイスの高性能化に新たな道筋_fig.2.jpg

図2 AgCrSe2 の中性子非弾性散乱スペクトル

参考文献
[1] B. Li, H. Wang, Y. Kawakita, et al., Nature Materials 17 (2018) 226-230/
DOI:10.1038/s41563-017-0004-2