↑member only

中性子産業利用推進協議会

〒319-1106
茨城県那珂郡東海村
白方162-1
いばらき量子ビーム研究センター D201
中性子産業利用推進協議会事務局
TEL:029-352-3934
FAX:029-352-3935
お問い合わせはこちら

カウンタ: 

研究会

平成29年3月29日(水)に研究社英語センター大会議室において,平成28年度第2回生物構造学研究会を開催しました.参加者は57名でした.

厚生労働省は,平成27年9月にグローバル展開を見据えた創薬を目指して「医薬品産業の強化総合戦略」を策定しました.これは医薬品産業の競争力強化に向けた緊急的・集中実施的な戦略で,中性子の産業利用における生物構造学研究会のミッションとも大きく関わっています.そこで,今回の研究会では,前回の研究会に引き続き,近年目覚ましい発展を遂げている構造生命科学の最前線から創薬を目指す医薬品産業の総合戦略を展望しました.

0329seibutu.png            
初めに,<施設の概況>セッションにおいて,日下勝弘茨城大学教授が「茨城県生命物質構造解析装置iBIXの現状と利用成果」と題して,装置設置の更新許可が降りる平成30年度以降に取り組む課題についても講演されました.

<構造生命科学>のセッションでは,豊島近東京大学教授が「カルシウムポンプの構造生物学 - 燐脂質との相互作用」,清水伸隆KEK教授が「PF小角散乱ビームラインにおけるBioSAXS測定解析」,中迫雅由慶応大学教授が「生命科学におけるコヒーレントX線回折イメージングの展開」と題して講演されました.
豊島教授は,Ca2+-ATPaseの反応中間体の結晶構造解析から,カルシウムポンプ機能の発現のためには,脂質二重膜は一見矛盾する性質を持つ必要があることを見出し,Ca2+-ATPaseの4つの中間体についてX線溶媒コントラスト変調法による解析を行って結晶中の脂質二重膜を解像された.この結果は蛋白質・燐脂質相互作用の新しい局面を拓くものであること,また,開発した技術は中性子による溶媒コントラスト変調へ直ちに応用可能であることを強調されました.
清水教授は,BioSAXS(タンパク質のX線溶液散乱)は,溶液中のタンパク質の性状や概形構造に関する情報を得るための手法として,主にタンパク質複合体や天然変性タンパク質などの結晶化が困難な状態の構造情報獲得に活用できるため,PFにおいて,BioSAXSの最新の測定解析技術に対応した様々なハードウェアの高度化と共にユーザーフレンドリーな解析環境整備に向けたソフトウェア開発なども推進している状況を紹介された.

0329seibutu2.png
中迫教授は,電子顕微鏡の適応範囲外にある厚い試料の内部構造を,光学顕微鏡では不可能な高分解能で可視化する手法としてのコヒーレントX線回折イメージング法を取り上げ,同手法の原理と概要を説明され,SPring-8やSCALAで実施している低温コヒーレントX線回折イメージング実験において,独自に開発し,標準化を行ってきた試料作成や実験手順,データ処理,解析方法を紹介されるとともに,細胞やオルガネラの二次元及び三次元構造解析の現状と今後の展開について展望された.

0329seibutu3.png
<医薬品産業&DDS>のセッションでは,奥 直人静岡県立大学教授が,「脳梗塞を標的としたDDS製剤の開発」,新津洋司郎札幌医科大学名誉教授が,「臓器線維症に対するsiRNAHSP47を用いた治療法の開発」,㈱レクメドの松本正社長が,「医薬品産業に新風を吹き込むバイオベンチャーの活躍」,エーザイ㈱の菊池寛氏が「DDS技術による創薬:企業的観点から見たその重要性」と題してそれぞれ講演されました.

奥教授は,がん治療用DDS創剤分野では,EPR効果によりナノ製剤ががん組織に蓄積して働くことが知られており,脳虚血時には血液脳関門(BBB)が破綻し,脳梗塞時にもEPR効果が起こる可能性がある.そこで,脳梗塞モデル動物を用いて,虚血/再灌流時にBBBの透過性が亢進し,リポソームが虚血部位に集積することを見出したため,脳保護薬を搭載したリポソームの有効性を評価した結果,脳保護効果と運動機能低下の改善が見られた.次に,血栓溶解剤とリポソーム製剤の併用療法により,血栓溶解剤の治療時間延長の可能性を明らかにし,生体高分子との相互作用を利用したノンインプリントのプラスチック抗体ナノ粒子を開発して脳梗塞治療に応用したことを紹介された.

新津名誉教授は,肝硬変を始めとする臓器線維症は,あらゆる臓器障害の終末像として生ずる病態で,病因の如何に拘わらず線維症そのものが,患者のmorbidityやmortalityを規定することが知られているが,この病態を治療する有効な手段は開発されていない.そこで,線維症の責任細胞である星細胞がコラーゲンを産生するという事実に注目し,コラーゲンの特異的茶ペロン蛋白であるHSP47のsiRNAを同細胞に特異的に運搬して線維症を治療する方法を考案した.その際,星細胞がビタミンAを好んで取り込むという性質に基づき,siRNAをリポゾームに包んだ後,その表面にビタミンAを表出させた.実際に,この薬剤を肝硬変モデルラットの尾静脈に注入することにより,肝内星細胞にsiRNAを送達させることに成功しただけでなく,肝硬変の治療にも成功した.また,同様な試みは肺線維症動物モデルや骨髄線維症モデル,腎線維症モデルにおいても有効であることも証明したことを紹介された.

 松本社長は,現在の医薬品はバイオベンチャー抜きでは開発できない.大手製薬企業は,誰も手掛けていない新技術や標的に対してやや消極的姿勢であるが,バイオベンチャーは,ライフサイエンスの最先端技術を積極的に自社ビジネスに取り込み,その技術や標的が有用であることを自ら証明し,それを大手製薬企業が提携や買収の名の下に自社に取り込んでいることなど,現在の医薬品開発に果たしているベンチャーの役割を具体的な事例を挙げて紹介された.

 菊池氏は,薬物の持つポテンシャルを最大限に発揮させるために,薬物の体内動態を制御して,その有効性や安全性,使用性を向上させるDDS(Drug Delivery System)について,DDS技術が創薬の重要なツールの一つになっており,新薬をなかなか創出し難くなった昨今では,その重要性がますます高まっていること,ならびに,各種注射剤DDS医薬品の開発状況を紹介された.

0329seibutu4.png
今回の研究会では,創薬に繋がる技術としての,中性子溶媒コントラスト変調測定技術や放射光によるBioSAXSの最新技術,ならびに,厚い試料の内部構造を高分解能で可視化するコヒーレントX線回折イメージング法を紹介していただくとともに,臓器線維症に対する治療薬が治療だけに留まらず再生医療としても機能すること,さらに,DDS技術が創薬の重要なツールの一つになっており,新薬の創出が困難になっている中でその重要性がますます高まっていることなどが活発に議論されました.