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2017年8月14日
日本原子力研究開発機構
J-PARCセンター
総合科学研究機構


シリコンを使わない太陽電池の設計に道筋

-有機系半導体の特性を解明、次世代型太陽電池の実用化へ期待-

現在の太陽電池にはシリコンでできた半導体が使われていますが,いくつか問題があります.シリコン樹脂を作るにはかなりの電力が必要です.また,太陽電池自体に起因する問題として,シリコン系太陽電池のエネルギー効率向上が限界に近づきつつあること,まらびに,波長が異なる太陽光をすべて電気エネルギーに変換することが難しいこと,変換する際に一部の光エネルギーが熱となって逃げてしまうことなどがあります.そうした中で,ペロブスカイト半導体である有機-無機ハイブリッド系材料を適用できる見通しを得ました.
ペロブスカイト半導体の特徴は,光エネルギーが熱として逃げてしまう割合が小さい点と高い変換効率にあります.しかしながら,なぜそうなるのかは不明であったため,J-PARCの中性子非弾性・準弾性散乱実験装置を使って調べた結果,ペロブスカイト半導体の中の有機分子中の電気双極子が独特の運動をしていることと,励起エネルギーの低い音響フォノンのみが熱伝導に寄与していることが,その原因であることを突き止めました.

日本原子力研究開発機構とJ-PARCセンター,総合科学研究機構の研究チームは,太陽電池の材料として「ヨウ化鉛メチルアンモニウム(MAPbI3)」に注目しました.この物質は,無機物で構成された8面体の中に,有機分子が入れ子のように入った「ペロブスカイト」と呼ばれる独特の結晶構造を持ちます.このペロブスカイト半導体の一つであるMAPbI3の大きな特徴は,電気に変換する過程でエネルギーが熱として逃げてしまう割合が圧倒的に小さい点と高い変換効率にあります.しかしながら,MAPbI3がなぜそうした特徴をもっているかは不明のままでした.
そこで研究チームは、J-PARC MLFの中性子非弾性・準弾性散乱実験装置を用いて、MAPbI3の原子運動を調べました。その結果,MAPbI3の中に含まれる有機分子の中に存在する正負の電荷が対となった電気双極子が独特の運動をしていること,この物質で熱を伝えているのは「光学フォノン」ではなく,励起エネルギーがとても小さい「音響フォノン」であり,その伝搬速度が遅く,かつ寿命が短いため,熱伝導が極めて低く抑えられていることが分かりました.さらに,MAPbI3では半導体が光を吸収することで生成される「電荷キャリヤー」という状態が,再結合により消滅するまでにきわめて長い距離を移動できるという,太陽電池素材として有利な性質をもっており,低い熱伝導がこのキャリヤーの長い寿命を支えていることも分かりました.

0822sirikon.png

a.PbI6が作る骨格構造の中心に有機分子のカチオンCH3NH3+が位置する
 構造をとっている。
b.有機分子は、C-N結合を軸にした3回対称回転モードとC-N軸が面内で
 回転する4回対称回転モードをとる。

シリコン系太陽電池は高温下で作成する必要があります.また,化合物半導体を使用した太陽電池は真空中で作成や加工しなければなりません.従来型の太陽電池ではこうした問題がコストを押し上げていました.しかし,ペロブスカイト半導体の作製には高温も真空も必要がなく,印刷技術を適用することで製造コストを大きく下げることができる可能性があります.今回の結果は,ペロブスカイト半導体すべてに応用できる可能性があり,高機能で安い次世代型の太陽電池を設計する際の基礎になることが期待されます.        
本研究は2017年6月30日に英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました.詳細につきましては下記のURLにアクセスしてください.
  http://j-parc.jp/ja/topics/2017/Press170810.html