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中性子産業利用推進協議会

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平成30年12月14日(金)に東京神田のエッサム神田ホール401会議室において,平成30年度物質科学研究会を「熱電材料開発の最前線と中性子回折の応用」をテーマに開催しました.参加者は41名でした.

省エネルギーの観点から低い温度での排熱利用や,燃費改善のために自動車のエンジンルーム内の排熱利用のために,高効率の熱電材料の開発に対する期待が高まっています.本研究会では,熱電変換材料に関して,最前線の研究開発動向から,熱電変換を効率的に行う材料構造の解明に至るまで幅広く議論しました.

1214busitu.png初めに,研究会主査である大山研司茨城大学教授が研究会開催の趣旨を説明されたあと,林眞琴氏(CROSS)がJ-PARC MLFの最近の運転状況を報告されました.

 <チュートリアル>セッションでは,池田輝之茨城大学教授が,「高効率熱電変換材料の研究動向―材料中の構造に着目して」と題して,世界のエネルギー事情とエネルギー利用の高効率化を可能とする熱電変換技術について説明されたあと,熱電変換に使用される材料中の構造に着目し,その制御による特性向上への取り組みを紹介されました.
 大山研司茨城大学教授は,「中性子では何がみえるのか? ― 材料研究の視点から ―」と題して,茨城県と茨城大学が強みとしている中性子のメリットについて説明され,さらに,最近急速に発達している中性子ホログラフィーにも触れ,新しい視点での熱電材料研究について提案されました.

 <構造解析>セッションでは,川北至信氏(J-PARC)が,「熱電変換層状結晶化合物セレン化クロム銀(AgCrSe2)における原子ダイナミクス」と題して,セレン化クロム銀(AgCrSe2)について,原子ダイナミクスの観点から熱電性能に関わるフォノンの性質を調べ,この物質の熱電特性にとって有利な低熱伝導性は,Agイオンの流動化に伴って横波フォノンがオーバ―ダンプする現象と関係があることを紹介されました.
 間広文氏(豊田中研)は,「熱電材料の計算材料設計と実験による実証」と題して,熱電素子の熱電特性を劇的に向上させたコンセプト(2元素同時ドープ、結晶欠陥、エネルギーフィルタリング),ならびに,熱電素子の応用としての太陽光発電+給湯システムを検討した結果を紹介されました.
太田道広氏(産総研)は「熱電における変換効率の向上と資源制約からの脱却:ナノ構造化と熱電硫化物」と題して,ナノ構造形成によるPbTeバルク体熱電材料の高効率化や資源制約の少ない熱電硫化物の創製,ならびに,それらを用いた熱電発電用モジュールの開発に関して,ナノ構造の形成によりPbTeバルク体の熱電性能指数ZTを,従来材料を凌駕する1.9まで向上させることに成功したこと,さらに,それを用いたモジュールで変換効率12%(従来技術の2倍程度)を達成した結果を紹介されました.

1214busitu2.png<熱電素子>のセッションでは,高際良樹氏(NIMS)が,「NIMSにおけるユビキタス系熱電素子の開発:現状とこれから」と題して,NIMSにおいて低コストかつ無害な熱電発電素子の研究開発を行っている現状と,計算科学・実験・機械学習を相補的に組み合わせた材料研究の一試行としてIoTセンサー用熱電発電素子の創出へ向けた取り組みについて紹介されました.

<ラットリング>ノセッションでは,李哲虎氏(産総研)が「熱電材料におけるカゴを持たないラットリングのダイナミクス」と題して,高い熱電性能を確保するためには,高い電気伝導率と低い熱伝導率を併せ持たせることが必要で,原子の大振幅振動「ラットリング」が有効であることを紹介され,ラットリングが大きなカゴ状構造の中に充填された原子でのみ生じるだけでなく,平面配位構造でも生じることを発見し,平面配位構造を持つテトラヘドライトや層状ビスマスサルファイドの結晶構造解析やフォノン解析を行って,平面配位でラットリングが発現する条件などを明らかにした結果を紹介されました.

1214busitu3.png<ナノワイヤ>のセッションでは,長谷川靖洋埼玉大学教授が,「熱電変換材料のナノワイヤー化で性能が上がるのか」と題して,有効質量が小さくバンド構造が分かっているBiとナノテクノロジーに着目して研究を進めている成果として,ナノワイヤー熱電変換素子における作製方法と物性測定の最前線を紹介されました.

<フォノン>のセッションでは,塩見淳一郎東京大学教授が,「フォノンエンジニアリングと中性子散乱実験への期待」と題して,熱電変換材料の中にナノ構造を付加して,フォノンの輸送を阻害し格子熱伝導率を低減する「フォノンエンジニアリング」の研究において,フォノンの波動的性質を明らかにしてフォノンエンジニアリングの研究を推進するには非弾性中性子散乱実験が非常に有効であることを紹介されました.

1214busitu4.png省エネルギーの観点から排熱などを有効利用するデバイスとして高効率の熱電材料の開発に対する期待が高まっているなかで,熱電変換材料の性能を向上させる,高い電気伝導率と低い熱伝導率を併せ持たせるための材料開発について幅広い観点から議論がなされ,その手段としての中性子回折・散乱実験の有用性を示すに好適な研究会であったと考えます.