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中性子産業利用推進協議会

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平成30年11月9日(金)にエッサム神田ホール2号館601会議室において,平成30年度磁性材料研究会を「磁気センサ・メモリの新展開」をテーマとして開催しました.参加者は45名でした.

中性子実験技術が得意とする分野にスピントロニクスがあります.昨年の本研究会においては,高速,大容量かつ耐環境性に優れた不揮発性スピントロニクス・メモリ素子の材料・素子技術の現状を紹介し,将来のコンピュータシステムへの展開などについて議論しました.今回の研究会は,スピントロニクスの別の適用対象としてのセンサやスキルミオンについて議論することを目的に開催しました.

初めに,北澤英明主査(NIMS)から研究会の趣旨とプログラムの紹介があり,林眞琴SCがJ-PARC MLFの水銀ターゲット9号機による運転状況を報告されました.

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<チュートリアル>では,宝野和博氏(NIMS)が「磁性・スピントロニクス研究の量子ビームへの期待」と題して,主として,磁性材料とスピントロニクスにおける軟X線放射光を利用した各種デバイス・センサ材料における機能解明研究成果を紹介するとともに,利用者サイドからの量子ビーム応用への期待を述べられました.

<スピントロニクス>セッションでは,安藤康夫東北大学教授が「スピントロニクス技術を用いた生体磁気センサ」と題して,高感度で低消費電力,小型デバイスサイズ,低コストなどを特徴とする,室温動作可能なTMRセンサの詳細な特性を示し,その実現に向けて必要な技術的課題と将来の可能性について紹介されました.また,介川裕章氏(NIMS)が「アモルファス基板上に作製したMgAl2O4障壁を持つ格子整合トンネル磁気抵抗素子」と題して,ハードディスク用磁気ヘッドや不揮発磁気メモリMRAMに

1109jisei2.png 利用されている強磁性トンネル接合(TMJ)においては,幅広い強磁性体と格子整合が良いスピネル(MgAl2O4)を新しい絶縁バリアとして用いた素子によって高出力化が達成されつつあるが,作製に高価な単結晶基板が必要という問題があり,素子構造の工夫によって非晶質基板上に作製可能なCoFeB/MgAl2O4/CoFeB構造の多結晶素子を実現したことを報告されました.

<スキルミオン>セッションでは,中島多朗氏(理研)が「中性子散乱による磁気スキルミオンの外場応答の観測」と題して,スキルミオンの外場応答を中性子散乱により研究した例として,一軸応力によるスキルミオン相の安定性の制御と,電流パルスによる急加熱・急冷条件下でのスキルミオン生成・消滅過程の観測結果を紹介されました.特に,後者においてはJ-PARC MLFにおけるストロボスコピック中性子散乱法を用いてミリ秒オーダーの時分割測定を行った結果について詳細に紹介されました.
山崎裕一氏(NIMS)は「共鳴軟X線散乱による磁気スキルミオンの外場制御と実空間観測」と題して,共鳴軟X線散乱法では透過型軟X線小角散乱を測定することで磁気スキルミオン格子の観測が可能で,磁場や電場,一軸応力による磁気スキルミオン観測の最近の研究成果を紹介されました.
有馬孝尚東京大学教授は「中性子散乱によって見えた電子スピンのゆらぎと電子軌道の結合」と題して,遷移金属のd軌道に関して,絶縁体で磁性を有する遷移金属化合物の低エネルギー励起状態は,スピン波と格子振動で表現されることが多く,軌道の効果はスピンの単一サイト異方性や有効g値に影響する程度であるが,軌道間のエネルギー差が100meV以下になると,励起状態には軌道の効果がより強く顔を出してくることに着目し,低エネルギーの軌道励起について物質機能の観点から中性子により実施した実験結果を紹介されました.

1109jisei3.png<磁気センサ>セッションでは,波多野睦子東京工業大学教授が「ダイヤモンド量子固体センサの現状と将来展開」と題して,ダイヤモンド中のNVセンター(窒素-空孔対)は,常温大気中で単一スピンを操作・検出することが可能で,その状態を光検出磁気共鳴でイメージングできる特徴があることから,NVセンターの量子効果に基づく特異な現象と,工学的な見地から感度と安定性の向上に必要な材料とデバイス,量子プロトコル計測のコア技術を説明されるとともに,固体量子センサの特長を活かしたバイオ・医用計測から車載・産業応用までに至るスケーラブルな応用の可能性を紹介されました.
寺地徳之氏(NIMS)は「量子センシングデバイスを目指したダイヤモンド結晶成長」と題して,室温での高感度磁気センシングを可能にするダイヤモンドNVセンタにおいて,高感度に磁気センシングするためには,結晶の高品質化や適切なカラーセンタの作りこみが不可欠で,ダイヤモンド結晶の化学気相成長におけるこれらの最新技術を紹介されました.
佐藤 卓東北大学教授は「反転対称性の破れた磁性体におけるマグノンの非相反性」と題して,近年マイクロ波分光技術の発達によりスピン波の非相反性の確認が行われ,スピン波スピン流制御の観点から大きな興味がもたれていることから,反転対称性の破れた強磁性体および反強磁性体のスピン波分散関係を中性子非弾性散乱を用いて精密に測定することで微視的な観点からスピン波非相反性を確認した結果について講演されました.

1109jisei4.pngIndustry4.0社会においては,IOT技術の導入によって機器の稼働情報や設置場所の温度や湿度などの情報をビッグデータとして集め,機能の低下などをAIによって検出し修理を行う高度な予防保全を実施する.このようなIOTや先進医療に必要とされるのが,高性能デバイスやセンサで,スピントロニクスはその革新に必須の技術です.中性子はスピントロニクスの研究に強みを発揮します.多くの皆さまに中性子を利用してスピントロニクス研究を展開していただきたいと思います.