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中性子産業利用推進協議会

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平成30年3月29日(木)に研究社英語センター大会議室において,平成29年度第2回構造生物学研究会を「新世代中性子構造生物学」をテーマに開催しました.

世界最高強度を誇るJ-PARC-MLFの中性子源には,茨城県生命物質構造解析装置iBIXをはじめ様々な分光器が設置されています.これらの最新の中性子分光器を利用すれば,生命機能に直結したタンパク質の構造変化やダイナミクスの解明を目指した「新世代中性子構造生物学」が開拓できると期待されます.そこで,本研究会では,日本の中性子構造生物学の未来と創薬への取り組みを紹介していただき,10年後の中性子構造生物学のあるべき姿を探ることを目的として開催しました.

0329seibutu.png<施設の概要>セッションでは,日下勝弘茨城大学教授が「iBIXの現状と利用成果」と題して,茨城県生命物質構造解析装置「iBIX」における測定精度向上や周辺機器の整備,ならびに,新たな装置性能実証などの現状と,中性子の特徴を生かして得られた最近の成果,また,平成30年度以降に取り組む予定の課題を紹介されました.
 山田武氏(CROSS)は「J-PARC MLFにおける生命科学に関わる実験装置の現状と将来」と題して,J-PARC MLFに整備されている生命科学に関わるBL02「DNA」とBL15「大観」の装置仕様と周辺機器の整備状況,ならびに,生命科学に関わる主要な研究成果などを紹介するとともに,次世代生命科学の考え方を紹介されました.
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<チュートリアル>セッションでは,片岡幹雄氏(CROSS)が,「中性子結晶構造解析の可能性 -イェロープロテインの構造と光反応」と題して,イェロープロテインでは低障壁水素結合および脱プロトン化したアルギニンという特殊なプロトン化状態が観測でき,中性子の強みが最大限に生かされている,これらの異常なプロトン化状態は,これまでの常識では説明できず,理論家や計算科学者を巻き込み論争されているが,最近,中性子結晶構造解析でsp2混成軌道とsp3混成軌道を分離することに成功し,脱プロトン化アルギニンの実験的証拠を提示できていることを紹介されました.

<構造生物学と創薬>セッションでは,阪下日登志氏(産総研)が「アカデミアにおける初期創薬イノベーション - 元製薬会社研究員の考える化合物探索 -」と題して,製薬会社で行われているHTSのような大規模スクリーニングやその後の化合物展開は,大きな化合物ライブラリーを維持管理や合成化学者を大量に抱えるなど,相当な負担となっているが,資金的に制限のあるアカデミアにおいて初期創薬(初期化合物探索)を行うことは現実的ではなく,より効率的な化合物探索方法が必要であり,初期創薬の流れの解説を始めとして,創薬研究のあるべき姿を説明されました.
塚崎智也奈良先端大准教授は,「タンパク質を膜透過させるSecタンパク質の構造生物学」と題して,生体内で生成されたタンパク質を透過させる生体膜には,Secトランスロコンとよばれる進化的に保存されたタンパク質膜透過チャネルがあり,大腸菌では膜タンパク質SecYやSecE,SecGから構成される複合体で,ここを経由するタンパク質輸送は,モータータンパク質SecA ATPaseと膜タンパク質SecDFが担っている,この分子メカニズムの解明のために行ってきたX線結晶構造解析や機能解析を解説するとともに,タンパク質膜透過モデルを紹介されました.

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畠山昌則東京大学医学部教授は「ピロリ菌がんタンパク質CagAの構造・機能とその制御」と題して,日本では毎年約12万人が新たに胃がんと診断され,約5万人が命を落としているが,最近の疫学研究から,日本人の胃がんの大多数がヘピロリ菌の胃粘膜感染によって引き起こされることが明らかにされ,そのピロリ菌はミクロの注射針様装置を保有しており,この針を用いて発がんタンパク質CagAを胃上皮細胞内に注入することで胃がんの発症を促す分子構造基盤,ならびに,CagAが示す分子多型と発がん活性との関連を紹介されました.
 嶋田一夫東京大学薬学部教授は「NMRを用いた膜タンパク質のin situ機能解明」と題して,in situ条件下でのタンパク質の動的構造情報を得ることが可能な核磁気共鳴法を用いて,生物学的に重要であり,かつ,動的構造が機能発現の本質であることが想定される膜タンパク質を主な対象としてその機能・構造解析例を紹介されました.
 木寺詔紀横浜市立大学教授は「タンパク質の大規模運動を伴った機能発現のシミュレーション研究」と題して,タンパク質の緩和過程は多くの場合ミリ秒を超える時間スケールの現象であり,通常の分子動力学計算では追跡することができないため,様々なサンプリング方法が提案されていますが,ここでは,プロトン輸送を原動力として起こる大規模な構造変化によって薬剤を輸送する多剤排出トランスポーターAcrBを中心に,独自の方法によるシミュレーションによって明らかになったタンパク質の機能発現過程について紹介されました.

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今回は,佐藤主査と杉山京大教授が提唱されている「新世代中性子構造生物学」をテーマに開催しました.<施設の概要>セッションではiBIXとJ-PARC MLFのBL02「DNA」とBL15「大観」の現状と将来について講演があり,<チュートリアル>セッションでは中性子結晶構造解析の今後の在り方が示されました.<構造生物学と創薬>セッションでは最前線の研究が3件詳細されたあと,NMRによるin situ機能解析と機能発現シミュレーションに関わる研究が紹介されました.34名の参加者があり,活発な質疑が展開されました.