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中性子産業利用推進協議会

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平成29年10月26日(木)に研究社英語センター大会議室において,平成29年度第1回残留ひずみ・応力解析研究会を「配管・圧力容器溶接部における残留応力」をテーマとして開催しました.

 配管や圧力容器においては,溶接部の残留応力が構造信頼性に及ぼす影響は大きい.今回の研究会では,配管や圧力容器における溶接残留応力の数値シミュレーション手法と量子ビームによる実測例,ならびに,溶接部におけるき裂進展シミュレーション手法などを紹介していただきました.また,チュートリアルにおいては,田中啓介名古屋大学名誉教授に材料の微細化による疲労強度の向上策について残留応力との関係について講演していただきました.

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 <施設の概況>セッションでは,富田俊郎茨城県企画部技監が「J-PARC MLFの現状と産業利用」と題して,J-PARC MLFにおける全体の課題採択状況,産業利用の採択状況の概要,ならびに,産業利用による主要な成果などを紹介されました.

<チュートリアル>では,田中啓介名古屋大学名誉教授が「材料組織の微細化と残留応力による疲労強度の向上」と題して,材料の疲労機構に関する最新の理解を基礎として,材料組織の微細化,材料欠陥,残留応力制御が疲労強度およびき裂進展に及ぼす影響の観点からの強度向上策について説明されました.

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<き裂進展予測>のセッションでは,初めに,林眞琴CROSSサイエンスコーディネーターが「大型構造物の溶接残留応力場におけるき裂進展挙動」と題して,沸騰水型軽水炉におけるステンレス鋼の応力腐食割れメカニズムについて説明されたあと,大型の炉内構造物であるシュラウドの溶接部に発生した応力腐食割れの残留応力場における進展・停留挙動を紹介されました.次に,日立製作所の岩松史則氏が「溶接残留応力場におけるSCCき裂進展評価」と題して,原子力機器の維持規格では,応力分布,欠陥形状などの評価条件を簡易的にモデル化した評価方法が定められ,安全側の評価結果を与えるため,有限要素法解析を用いて,溶接残留応力のような複雑な分布応力場において想定されるき裂形状を表現可能なき裂進展評価手法を開発した結果を紹介されました.

<溶接残留応力解析と実験>セッションでは,生島一樹大阪府立大学准教授が「理想化陽解法FEMを用いた円筒多層溶接継手の残留応力とショットピーニングによる残留応力改質効果の予測」と題して,多層溶接時の残留応力を予測するために,大規模非線形解析手法である理想化陽解法FEMを用いて100万要素を超える規模の3次元移動熱源熱弾塑性解析を実施した結果,ならびに,溶接による表面近傍の引張り残留応力場を改善するショットピーニング施工時の応力挙動を予測する力学モデルを構築して,ショットピーニング後の残留応力分布を予測した結果を詳細されました.
 岡野成威大阪大学准教授は「放射光in-situ計測と数値シミュレーションによる溶接応力の比較考察」と題して,溶接構造用圧延鋼材SM490AのTIG溶接中の過渡応力の放射光in-situ計測と,溶接アークの熱源特性と相変態を考慮した溶接シミュレーションモデルによる数値解析を比較検討し,放射光in-situ計測では,溶接金属部・熱影響部・母材部における過渡応力を測定し,相変態に伴うフェライト・オーステナイトの各相の応力変化を把握したこと,一方,数値シミュレーションでは溶込み形状・温度履歴,溶接中の過渡応力や溶接後の残留応力を全体的に精度良く評価できた結果を紹介されました.
 原子力機構の勝山仁哉氏は「原子炉圧力容器及び配管溶接部に対する残留応力解析・構造健全性評価に関する最近の研究」と題して,原子炉圧力容器内面のクラッド部や原子炉配管溶接部を対象に,中性子回折法やDeep hole drilling法等の試験による検証を通じて整備した溶接残留応力解析手法について説明されるとともに,機器の経年劣化に係わる様々な影響因子の不確実さを考慮して,機器の破損頻度を求めることができる確率論的破壊力学に基づく健全性評価手法に関する最近の研究を紹介されました.

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<実機における残留応力測定>セッションでは,島津製作所の小川理絵氏が「X線回折によるワイドレンジ高速検出器を用いた残留応力測定」と題して,多数の半導体のチャンネルからなるワイドレンジの高速検出器を用いた「ワンショット分析」により,10度~20度もの角度範囲のデータをゴニオメータのスキャンなしで一度に取り込むことが可能であることを活かした高速残留応力測定例や,硬度計での測定結果との相関など,多角的な測定について紹介されました.
 パルステック工業の野末秀和氏は「ポータブル型X線残留応力測定装置による溶接部の現地測定」と題して,最近同社が上市したポータブル型X線残留応力測定装置μ-X360sが,従来装置よりも小型軽量かつX線出力強化や大きなセンサを搭載することにより,高速測定が可能で,かつ,簡便な設置を可能となったことなどの特長,ならびに,多くの現場での活用事例を紹介されました.
日立製作所の王昀氏は「中性子回折による遠心鋳造二相ステンレス鋼の相応力に関する研究」と題して,強度および耐食性に優れるフェライト・オーステナイト系の二相ステンレス鋼を遠心鋳造で製作した円管における相間応力をJ-PARC MLFのBL19「匠」を用いて測定し,残留応力の発生機構および応力緩和の可能性を検討した結果などについて報告されました.
 豊田中央研究所の野崎洋氏は「電磁鋼板におけるせん断加工による残留応力の中性子回折による測定」と題して,ハイブリッド自動車(HV)などのモーターに利用されている電磁鋼板を目的の形状に打ち抜くときに切断面付近にひずみが生じ,モーターの損失となる磁気ヒステリシスの原因となること,そのひずみ分布を把握するために,透過力に優れた中性子を用いてひずみ分布を測定した結果を紹介されました.

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今回の研究会では,疲労強度の大家である田中啓介名古屋大学名誉教授に材料の微細化による疲労強度の向上策について残留応力との関係について講演していただくとともに、残留応力場における応力腐食割れと疲労き裂の進展シミュレーションについて破壊力学と有限要素法による手法を紹介していただきました.さらに,研究会のテーマである配管や圧力容器における溶接残留応力の有限要素法による解析法、ならびに、X線や中性子回折法による実機の残留応力測定結果を紹介していただきました.70名の参加者があり,活発に議論が交わされました.J-PARC MLFのBL19「匠」の利用拡大に繋がることを期待したいと思います.