↑member only

中性子産業利用推進協議会

〒319-1106
茨城県那珂郡東海村
白方162-1
いばらき量子ビーム研究センター D201
中性子産業利用推進協議会事務局
TEL:029-352-3934
FAX:029-352-3935
お問い合わせはこちら

カウンタ: 

平成28年9月11日(月)に研究社英語センター大会議室において,
平成29年度第1回構造生物学研究会開催しました。

茨城県生命物質構造解析装置iBIXではさまざまな改良が加えられてきました.J-PARC MLFの水銀ターゲットも疲労対策を講じた8号機がビーム出力300kWでの運転開始を10月末に控えています.これを機会に,世界における中性子生物構造学の現状を概観するとともに,日本における中性子構造生物学が目指すべきところを,関係者が集まって議論しました.特に,日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部医薬品研究課の善光龍哉氏には,AMED主体で動いている創薬に関係するプロジェクトの推進状況について説明していただき,構造生物学研究の在り方に方向付けをしていただきました.

0911seibutu.png
<施設の概要>セッションでは,富田俊郎茨城県技監が,「J-PARC MLFの現状と中性子産業利用」と題して,J-PARC MLFの現状と中性子産業利用,茨城県BLの利用の仕方,ならびに,将来計画について説明され,日下勝弘茨城大学教授が「iBIXの現状」と題して,BL03茨城県生命物質構造解析装置「iBIX」における測定精度向上への取り組みや,周辺装置の状況を含む現状,ならびに,最近の主要な成果について説明されました.

0911seibutu1.png

<チュートリアル>セッションでは,AMEDの善光龍哉氏が「日本の創薬を活性化するために果たすべきAMEDの役割」と題して,アカデミア創薬を推進するためにAMEDが果たすべき役割とアカデミア創薬における構造生物学・構造生命科学に期待するところを紹介していただいた.また,京都大学の杉山正明教授には「世界の中性子構造生物学の未来像とそのために日本の中性子構造生物者が果たすべき役割」と題して,現在構造生物学において注目を集めているHybrid/Integrative Structural Biology(HISB)に関して,重水素化を駆使した静的・動的構造の統合的な解析が今後の方向であるとの提言を紹介されました.

0911seibutu2.png

 <iBIX高度化>のセッションでは,山田太郎茨城大学准教授が「iBIXによる長格子カタラーゼの中性子単結晶回折」と題して,格子定数がa=133.3Åという非常に大きい,高度高熱菌由来マンガンカタラーゼの中性子回折実験を行って2.4Åの分解能の回折データを得たこと,また,回折斑点の強度積分領域の重なりを10%許容することにより,2.0Å分解能のデータを得たこと,さらに,アルカリ性条件下pD9.6においてグルタミン酸の側鎖カルボン酸のプロトン化が観測されたことを報告されました.矢野直峰茨城大学助教は「タンパク質単結晶の回折斑点の高精度解析法の開発」と題して,iBIXにより測定されたタンパク質中性子回折データの弱い反射の積分強度を高精度に決定するためにプロファイルフィッティング法を開発し,データ精度の指標である強度データのRmergeとRpim,構造精密化後のRworkとRfreeが高分解能領域で改善したことと,回折データ処理ソフトへの実装状況について紹介されました.

0911seibutu3.png

<構造生物学>セッションでは,岡島俊英大阪大学教授が「高分解能X線および中性子構造解析による酸化型銅アミン酸化酵素の活性中心構造」,旭化成ファーマの坪井千明氏が「磁場配向技術の結晶構造解析への応用」,櫻井和朗北九州市立大学教授が「DDSナノ粒子の溶液中での精密構造解析」,微生物化学研究所の野田展生氏が「構造生物学から迫るオートファジーの分子機構」と題してそれぞれ講演されました.
岡島教授は,銅アミン酸化酵素の触媒反応におけるプロトン移動を理解するためiBIXを用いて,特に,反応中間体の中性子構造解析を行い,反応開始状態である酸化型酵素の中性子・X線共構造を1.72Å分解能で決定することに成功したことと,重水素原子座標に基づいてX線結晶構造解析だけでは分からなかった詳細な活性中心構造情報を紹介されました.
 坪井氏は,タンパク質の中性子結晶構造解析でボトルネックとなっている単結晶の大型化に関して,多量の微結晶からなる系に特殊な回転磁場を印加することにより全ての微結晶が一様に三次元配向し,疑似的な巨大単結晶を作製でき,得られた疑似的単結晶を試料に用いることで,単結晶試料と遜色のない回折測定が可能となることを示されました.
 櫻井教授は,薬物送達に用いられるDDSナノ粒子は,粒子を構成する分子が共有結合以外の相互作用で緩やかに結合して自己組織化している「超分子集合体」であり,顕微鏡法や計算化学によって複雑な階層構造を可視化することも可能となっていること,また,薬事申請の際にはCMCやRegulatory Scienceの観点から客観性と定量性のある物理化学的な解析手法が重要で,溶液中のDDSナノ粒子の溶液散乱法による解析法を紹介されました.
 野田氏は,オートファジーは,真核細胞に保存された主要な細胞内分解系であり,二重膜オルガネラであるオートファゴソームの新生を通してその中に分解対象を隔離し,リソソームへ輸送することで分解を行うこと,および,オートファジーはオートファゴソームで包めるものは原則すべて分解し,細胞内のほぼあらゆる生体高分子やオルガネラ,細胞内に侵入した細菌まで分解対象とすることで生体の恒常性維持に貢献していることを説明され,構造生物学によって明らかとなってきたオートファジーの分子機構に関する最新の知見を紹介されました.

0911seibutu4.png
0911seibutu5.png

今回の研究会では,日本における中性子構造生物学が目指すべきところについて官学から考え方をご紹介いただくとともに,iBIX装置の性能確認と測定精度の向上の状況,ならびに,構造生物学における最近の進捗をご報告していただきました.45名の参加者があり,活発な議論が展開されました.