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中性子産業利用推進協議会

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平成29年10月12日(木)にエッサム神田ホール301会議室において,平成29年度磁性材料研究会を「磁気冷凍材料研究の最前線」をテーマに開催しました.参加者は40名でした.

コンピュータシステムは,マイクロプロセッサやワーキングメモリ,ストレージデバイスなどで構成されています.コンピュータは大型化や高性能化が進むとともに,電力消費が増大しています.消費電力を抑えるとともに,高性能化を進めるための基本技術はスピントロニクス技術です.本研究会では,新世代メモリーとして注目を集めている高速,大容量かつ耐環境性に優れた不揮発性スピントロニクスメモリ素子の材料と素子技術の現状を議論しました.
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初めに,研究会主査である北澤英明物材機構副拠点長が開催趣旨を説明されました.<施設の概況>セッションにおいては,峯村哲郎茨城県CDがJ-PARC MLFにおける産業利用の現状を説明されました.
 <チュートリアル>セッションでは,スピントロニクス分野の世界的権威である大野英雄東北大学教授に「スピントロニクス素子研究:材料からデバイスへ」と題して,積回路応用のための高性能スピントロニクス素子の開発,そして,集積回路実証に至るまでの研究について概観していただきました.原子力機構の武田全康センター長には「偏極中性子反射率法による磁性多層膜の磁気構造解析」と題して,偏極中性子反射率法の原理を説明していただくとともに,典型的な実験例をいくつか示していただいた後,国内で利用することが可能な中性子反射率計について紹介していただきました.水口将輝東北大学教授には「放射光を活用したスピントロニクス磁性材料解析の新展開」と題して,放射光を活用して解析された新規磁気異方性材料の創製と特性評価を中心に概説し,新しい解析手法などについても紹介していただきました.
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 <デバイス開発>セッションでは,柳原英人,筑波大学准教授が「スピントロニクス材料としてのスピネルフェライト」と題して,軟磁性から高磁気異方性材料まで様々な磁気特性を示すスピネルフェライトは,伝導特性が絶縁体からハーフメタルを示すものまで様々なものがあり,魅力的な酸化物磁性体であるが,薄膜化することにより欠陥が導入され,磁気特性が大きく損なわれることから,反応性スパッタリング法を用いることにより高品位なスピネルフェライト成膜が可能であることを見出し,その成膜技術を用いて得られた薄膜の誘導磁気異方性等について紹介されました.
 大矢忍東京大学准教授は「スピントランジスタの原理動作実証に向けた材料開拓と新規物性探索」と題して,高品質な強磁性体/半導体界面を実現可能な強磁性半導体GaMnAsを用いた縦型スピントランジスタは,大きな磁気抵抗比が得られ,最近,電流変調比も向上していることや,ゲート印加により得られた特異な磁気異方性の変調現象,ならびに,GaMnAs量子井戸へテロ構造で観測された新規物理現象を紹介されました.
 NIMSの三谷誠司氏は,「強磁性トンネル接合用新材料開発と物性・機能評価」と題して,強磁性トンネル接合は,不揮発磁気メモリを始めとする各種の磁気・スピントロニクスデバイスの主要素子構造で,強磁性電極層界面に生じる垂直磁気異方性を利用した電圧制御型のデバイス開発が進められていることから,スピネル酸化物系新規バリア材料やFe/MgO系界面垂直磁気異方性について説明されるとともに,中性子を用いた磁性薄膜材料の基礎物性評価の重要性と期待について詳細されました.
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 東芝の下村尚治氏は「大容量・高速不揮発メモリVoltage Control Spintronics Memory (VoCSM)」と題して,電圧効果(Voltage Control Magnetic Anisotropy:VCMA)とスピンホール効果を組み合わせたVoltage Control Spintronics Memory (VoCSM)は,下地電極上に複数のMTJを配置し,VCMAにより閾値電流を下げて高効率で,選択素子のみをスピンホール効果で磁化反転をさせるもので,従来のMRAMの課題を解決し,大容量・高速の不揮発メモリを大きく発展させる可能性があり,TEGを試作して動作確認実証に成功したことなどを紹介されました.
 東芝の金尾太郎氏は「3次元磁気記録における再生方法:スピントルク発振素子を用いた層選択共鳴読み出し」と題して,複数の記録層をもつ3次元磁気記録における再生方法として,スピントルク発振素子(STO)と記録層の共鳴を利用した共鳴読み出しが提案されている,この方法では,記録層の共鳴周波数にSTOの発振周波数を合わせることにより各記録層に選択的にアクセスできることから,磁気ヘッド形状に適合する磁化構成をもったSTOを提案したこと,ならびに,その2層の選択的共鳴読み出しのシミュレーション結果を紹介されました.
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 水上成美東北大学准教授は「磁気抵抗メモリ用高磁気異方性材料と磁化ダイナミクス評価技術」と題して,磁気抵抗メモリではナノスケールの磁気トンネル接合で構成される磁性層に情報が記憶されること,その磁性層には垂直磁気異方性材料が用いられ,磁化方向の電気的スイッチングで情報が書き換えられるが,そのスイッチング速度や消費電力は磁性体のダイナミックな特性によって決まるため,マンガン系材料を始めとする高磁気異方性材料における磁化ダイナミクスについて紹介されました.
 雨宮健太KEK教授は「偏極中性子反射率と深さ分解X線磁気円二色性を用いた界面におけるねじれ磁気構造の解明」と題して,強磁性/反強磁性界面における磁気異方性に着目し,強磁性Ni/Cu(001)薄膜と反強磁性FeMn薄膜が接した時に,原子層レベルの界面においてスピンの向きがどのように変化しているかを観察し,表面付近の磁気状態の深さ依存性を直観的に観察できる軟X線深さ分解X線磁気円二色性と,埋もれた界面付近の磁気状態を外場に影響されずに深さ分解して観察できる偏極中性子反射率を組合せることによって,Niのスピンが内部からFeMnとの界面に向けてねじれた構造になっていることを紹介されました.

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 今回は,スピントロニクス材料・デバイス研究の歴史から,新材料探索研究,最新の評価技術,さらには磁気抵抗効果メモリに代表されるデバイスの最先端研究開発まで,非常に広い範囲をカバーする充実したプログラム内容であったため,この分野の最近の動向を俯瞰できるまたとない機会となりました.活発な質疑応答が交わされ,中性子利用との接点を模索するにも好適な研究会であったと考えます.