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中性子産業利用推進協議会

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平成29年11月27日(月)にエッサム神田ホール401会議室において,平成29年度ソフトマター中性子散乱研究会を「ダイナミクス測定手法の最前線 ~動的階層構造と材料物性~」をテーマに開催しました.33名の参加者がありました.

近年の量子ビームの発展は目覚ましく,様々な測定手法を相補的に利用することでソフトマター材料の静的な階層構造及び階層構造間の相関を非常に明確に示すことが可能となってきました.しかしながら,ソフトマター材料の機能発現を真に理解するためには静的な階層構造だけでは不十分であり,その動的な構造(ダイナミクス)情報が不可欠で,各階層に応じた動的な構造を明らかにすることが必要です.動的な階層構造の解明は,ソフトマターの機能発現に重要であり,実用的な面からもその解明は不可欠です.今回は中性子散乱に捉われずに,様々な時空間スケールのダイナミクス測定手法の専門家の方々をお招きし,今後の産業利用・新奇材料の設計の指針へ向けて動的階層構造を如何にして抽出するかを議論しました.

1127soft.png 初めに,研究会の幹事である井上倫太郎京都大学准教授が研究会の趣旨を説明されたあと,<施設の概況>セッションにおいては,林眞琴氏(CROSS)がJ-PARC MLFにおける産業利用の現状を説明されました.次に,富永大輝氏(CROSS)が「ソフトマター研究におけるJ-PARL MLFのダイナミクス装置」と題して,J-PARC MLFに整備されたダイナミクス中測定装置の現状を紹介されました.

 間下亮氏(住友ゴム)は「中性子を用いたゴムのダイナミクス研究」と題して,ゴム材料の静的および動的構造とゴムの補強効果について準弾性中性子散乱により研究した結果を紹介されました.

 斎藤真器名京都大学助教は「放射光を用いたナノ-マイクロ秒の原子・分子ダイナミクス測定の原理と応用」と題して,放射光により励起されたFe-57原子核が脱励起する際に放射する単色のガンマ線を準弾性散乱実験のプローブ光として用いて,ナノ-マイクロ秒の原子・分子ダイナミクスを測定する基本的な原理と,シリカ粒子を添加したゴムのÅスケールにおける拡散ダイナミクスの測定に関する応用例を紹介されました.

 竹下聡史KEK助教は「高分子におけるMHz帯分子ダイナミクスのミュオンスピン緩和法による観測」と題して,MHz~GHz帯における分子ダイナミクスを観測可能なミュオンスピン緩和法は,素粒子ミュオンのスピンをプローブとする手法で,試料に打ち込んだミュオンが停止する数nm程度の局所的な分子ダイナミクスの情報が得られることを実例を含めて紹介されました.

1127sofut2.png   深尾浩次立命館大学教授は「誘電緩和・中性子反射率測定による高分子積層薄膜のガラス転移ダイナミクス」と題して,界面相互作用の効果を調べるために,高分子積層薄膜をガラス転移温度以上でアニールした際に生じる,ダイナミクスおよび界面構造の変化を誘電緩和測定および中性子反射率測定により調べ,ポリメタクリル酸メチルのアニール過程において,α過程のダイナミクスが薄膜での特徴的なダイナミクスから,バルクでのダイナミクスへと変化するとともに,界面でのラフネスの増大がほぼ同じ時間発展則に従って生じていることを紹介されました.

 河村純一東北大学教授は「リチウムイオン電池材料のイオン伝導度と拡散係数 - Nernst-Einstein則の破れと時空スケール依存性」と題して,パルス磁場勾配NMR法と同位体SIMS法によりLiイオン電池の電解液や固体電解質,正極物質中の拡散係数を測定し,均一な液体・固体においても,イオン伝導度σと拡散係数Diの間には、Nernst-Einstein則からの系統的なずれがあり,イオン間の多体相関により説明できること,固体電解質や細孔中の電解液では,拡散係数は拡散時間・距離依存性を示し,不均一系特有の異常拡散として説明できること,ならびに,拡散係数には時空スケール依存性があり,拡散経路の階層構造が示唆されることを紹介されました.

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 吉田亨次福岡大学准教授は「細孔水およびLiイオン電池用電解液の中性子スピンエコー測定」と題して,高いエネルギー分解能を誇る中性子スピンエコー測定を用いてメソ細孔物質に閉じ込められた過冷却水とLiイオン電池用電解液のダイナミクスを調べ,過冷却水では水の液-液相転移が生じる温度で細孔水の動的挙動が変化し,Liイオン電池用電解液ではLi塩濃度の増加に伴って分子スケールより大きな構造の存在を示すプレピークが成長することを紹介され,これら電解液の輸送性質を液体構造の観点から説明されました.

 増渕雄一名古屋大学教授は「レオロジーでわかるソフトマターのダイナミクス」と題して,粘弾性測定結果は機械的スペクトロスコピーとして分光学的に解析することが可能であるが,誘電緩和など他の手法に比べて長時間域でのダイナミクスの測定にしか使えない,そのため分子集合体や巨大な分子全体の運動などの複数の運動モードが測定結果に複雑に現れる,このような結果を解析するためには,現象論的に緩和の代表量を得て,その量と系の構造との関係を調べ,また,分子論的に緩和を解析することが必要であることを紹介されました.

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  本研究会では,中性子構造解析の特長の1つでもあるダイナミクス測定手法に焦点をあて,中性子だけでなく放射光やミュオンなどの量子ビーム,ならびに,レオロジー応用による実例が紹介されました.測定対象材料も,ゴムやガラス,Liイオン電池材料など多岐に亘り,活発な質疑応答が交わされました.ダイナミクス測定の視点で広い情報が得られ,大変有意義な研究会となったと考えます.