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中性子産業利用推進協議会

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 平成29年10月20日(木)に東京八重洲のフクラシア八重洲会議室Kにおいて,「BL20「iMATERIA」における学術・産業利用研究」をテーマとして平成29年度物質科学研究会を開催しました.43名の参加者がありました.

BL20「iMATERIA」は,産業利用を主たる目的として整備された汎用の中性子回折装置で,粉末結晶構造解析と小角散乱,全散乱,集合組織測定の4つの機能を有しています.供用開始からの8年間に様々な周辺機器を整備して来ました.今回の研究会では,iMATERIAにおいて整備された各種周辺機器類をカテゴリー別に概要を紹介し,どのような材料評価実験が可能であるのかを概観するとともに,茨城県プロジェクトの成果,ならびに,J-PARCの一般利用研究課題によって挙げられた電池材料に関する先行学術成果トピックスを紹介しました.
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 <iMATERIAの概況>セッションでは,初めに,富田俊郎茨城県技監が「iMATERIAにおける成果創出のための取り組み」と題して,iMATERIAにおける成果創出のための様々な取組みと今後の展開について紹介されました.次に,iMATERIAの装置責任者である石垣徹茨城大学教授が「iMATERIAの現状と標準周辺機器の稼働状況」と題して,iMATERIA の基本的な機能や現状,ならびに,標準的な周辺機器としてどういうものが整備されているかを説明されました.

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 続いて,星川晃範茨城大学准教授が「iMATERIAのカテゴリー別周辺機器の整備状況と今後の展望」と題して,これまでに開発したiMATERIAの周辺機器の整備状況と,今後の開発予定に関して分類別に紹介するとともに,それぞれの周辺機器で実施したモデル実験成果を紹介されました.最後に,小角散乱機能の責任者である小泉智茨城大学教授が「iMATERIAにおける小角散乱機能とその応用例」と題して,iMATERIAの小角散乱機能に「中性子偏極」と「水素の核スピン偏極」を組み合わせた新しいコントラスト変調法を発展させていること,ならびに,この技術を製品に適用するために,企業ユーザーと一体で茨城県小角散乱分科会において行っている共同実験の成果を紹介されました.
 <施設の概況>セッションでは,林眞琴CROSSサイエンスコーディネーターが,「J-PARC MLFの産業利用」と題して,J-PARC MLFの現状,J-PARC MLFにおける産業利用の状況,2017Bにおける課題採択結果,ならびに,産業利用成果などを紹介されました.
 <iMATERIAにおける材料研究>セッションでは,松川健茨城大学助教(代理:星川准教授)が「有機非線形光学結晶の粉末中性子回折とイオン間距離の評価」と題して,iMATERIAにおいて粉末中性子回折により有機非線形光学結晶の結晶構造解析を行い,水素結合と光学特性の相関について検討した結果を報告されました.次に,吉田幸彦茨城大学助教が「
プロトン伝導体(C(NH2)3)2Zn(SO4)2の構造パラメータ温度依存性」と題して,塩基性の強いグアニジン分子から構成される無水和結晶(C(NH2)3)2ZnSO4において,固体相転移に伴い,グアニジウムイオンを介した低活性化エネルギーのプロトン伝導性が観測されたことから,このプロトン伝導性を理解するために中性子回折測定を行い,水素結合状態や無機骨格の配位多面体構造,および,原子変位量(プロトン輸送経路等)について検討した結果を報告されました.続いて,小貫祐介茨城大学助教が「六方晶系合金の変形と集合組織」と題して,六方晶合金の塑性変形と破壊のメカニズムは必ずしも明らかでないことから,マグネシウム合金において中性子回折によるバルク集合組織測定や電子顕微鏡を用いたEBSD測定,および,計算シミュレーションを組み合わせることにより,局所的現象と全体の変形を支配する現象を整理することに成功した結果を報告されました.

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 <先行学術研究>セッションでは,初めに,趙文文東京電機大学助教が「中性子を用いたナトリウムイオン電池用正極材料の研究」と題して,CrやTi,Mnといった資源が豊富な元素で構成されるNaイオン蓄電池用の新規酸化物系電極材料について,中性子回折法により結晶構造解析を行い,結晶構造の違いや遷移金属酸化物層間におけるNaイオンの分布が電池材料の電極特性に与える影響について検討した結果を報告されました.次に,井手本康東京理科大学教授が「Liイオン電池用正極材料の充放電過程における平均・局所構造変化」と題して,Liイオン電池正極材料の充放電過程について,平均構造解析と局所構造解析を組み合わせて多角的に取り組むことで電池特性を支配する因子を明らかにして電極材料の開発指針を得ていくことを目指して,0.5Li2MnO3-0.5Li(Mn1/3Ni1/3Co1/3)O2系固溶体において充放電レートが平均・局所構造に与える影響などについて報告されました.
 小林玄器分子研准教授は「ヒドリドイオン導電性酸水素化物の合成,構造,イオン導電特性」と題して,ヒドリド(H-)が酸化物イオン(O2-)と同程度のイオン半径をもつ1価のアニオンでサイズと価数の観点から高イオン導電が期待でき,H-/H2の標準酸化還元電位がMg/Mg2+と同程度であること,さらに,H-のイオン導電現象と酸化還元反応を利用することで,高エネルギー密度のエネルギーデバイスが実現する可能性があることから,H-とO2-が結晶格子内に共存する酸水素化物を対象に物質探索を行って開発した輸率1のH−導電性を有する新規酸水素化物La2-x+ySrx+yLiH1-x+yO3-y (0 ≤ x < 1, 0 ≤ y ≤ 2)の合成方法や結晶構造,H−導電特性について報告されました.
 産総研の田渕光春氏は「Fe及びNi置換Li2MnO3系正極材料の充放電時の結晶構造変化」と題して,開発された新規のFe及びNi置換Li2MnO3系正極材料は,合成法及び電池作製技術の進展により,既存のLi過剰系正極材料と比較して優れた充放電特性を有することが分かったが,さらなる特性改善のために,遷移金属イオンのみならず酸化物イオンまでも酸化還元する複雑な充放電機構を解明することを目的に行ったX線リートベルト解析結果およびiMATERIAによる粉末中性子リートベルト解析の結果を報告されました.

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今回は,中性子の産業利用を掲げてJ-PARC MLFの共用開始当初から稼働して10年目となった「iMATERIA」の設備・機能と利用成果に焦点を当てました.設備については,産業利用の迅速性と多様性に応えるために装備された自動試料交換機や種々の試料環境装置,結晶構造解析,集合組織解析,ならびに,小角散乱解析機能などハード・ソフト両面での充実ぶりを伺わせる報告がありました.さらに,装置担当の研究者の研究成果,および,最も多い利用分野である電池材料関連での成果について4件の講演があり,活発な質疑が交わされました.この10年間のiMATERIAでの活動を概観するには時間がやや足りなかった感もありますが,今後のさらなる展開を期待させる充実した研究会となったと考えます.