↑member only

中性子産業利用推進協議会

〒319-1106
茨城県那珂郡東海村
白方162-1
いばらき量子ビーム研究センター D201
中性子産業利用推進協議会事務局
TEL:029-352-3934
FAX:029-352-3935
お問い合わせはこちら

カウンタ: 

平成29年1月19日(木)にエッサム神田ホール2F多目的ホールにおいて,平成28年度磁性材料研究会を「磁気冷凍材料研究の最前線」をテーマに開催しました.

 磁気冷凍は磁性体の有する磁気熱量効果を利用して冷却する技術です.フロンなどの冷媒を使わないため,冷蔵庫やエアコンで利用されている冷凍機よりも環境負荷が少なく,圧縮機が不要で省エネ化が図れるため注目されています.この新しい磁気冷凍技術では冷凍の要となる磁性体の開発だけでなく,強磁場の発生方法や熱伝達,熱交換など,全体としての冷凍システムの開発も重要です.一方,中性子は,磁気冷凍の要となる磁気熱量効果を生み出すスピンの整列状態や運動状態を直接観測できるミクロな測定手段です.本研究会では,磁気冷凍技術の最前線で活躍されている研究者に最新技術を紹介していただき,磁気冷凍技術の将来展望と中性子の利活用に関して議論しました.

0127jisei.png

 初めに,研究会主査である北澤英明物材機構副拠点長に主査就任挨拶と開催趣旨を説明されました.<施設の概況>セッションにおいて富田俊郎茨城県技監がJ-PARC MLFにおける産業利用の現状を説明されました.
 <磁気冷凍技術>セッションでは,中部電力の平野直樹氏が「磁気冷凍材料研究の最前線 - 磁気冷凍技術の現状・課題・将来 -」,鉄道総合技術研究所の宮崎佳樹が「鉄道空調を目指した室温磁気ヒートポンプの開発」,㈱東芝の齋藤明子氏が「磁気冷凍の実用の鍵となる磁気冷凍材料」,和田裕文九州大学教授が「巨大磁気熱量効果を示すMn化合物の磁性」,物材機構の沼澤健則氏が「極低温における磁気冷凍」,北澤英明主査が「中性子による磁気冷凍材料研究」と題してそれぞれ講演されました.

 平野氏は,磁気冷凍技術が,海外に比べて高効率を実現している我が国のヒートポンプ技術をさらに効率向上させることのできる革新的な省エネルギー技術であり,冷媒に温室効果ガスを使用しないため,環境にもやさしい画期的な技術であることを紹介された.また,磁気冷凍技術は,基礎研究段階からシステムのデモンストレーション段階を経て,実用化,商品化の一歩手前まで来ており,これまでの取り組みや現在進められている開発の動向を概観し,その課題や将来性について解説されました.

 宮崎氏は,鉄道総研が鉄道車両空調のノンフロン・省エネルギー化の観点から,現行の蒸気圧縮式冷凍の代わりに磁気ヒートポンプシステムの開発を目指している状況を説明され,さらに,磁気ヒートポンプ技術の大型冷凍・冷房装置への適用可能性を検証するため,1kW級磁気ヒートポンプシステムを試作した結果と合せて,磁気ヒートポンプ技術の大型冷凍・冷房装置への適用可能性と最近の鉄道総研における取り組みを紹介されました.

0127jisei2.png
 齋藤氏は,磁気冷凍の汎用冷凍機器応用への視点から,永久磁石で手軽に生成できる低い磁場でも大きなエントロピー変化をトリガできる磁気冷凍材料が不可欠で,遍歴電子メタ磁性を示すLaFeSi系物質や磁気相転移と構造相転移が同時に発現することで格子系のエントロピー変化も重畳される物質系の磁気冷凍特性について紹介されました.
和田教授は,現在,室温磁気冷凍材料の主流となっている強磁性から常磁性へ一次相転移を示す遷移金属磁性体の物質群について,巨大磁気熱量効果を生じる磁性体が相転移の際に放出するエントロピーの起源がよく分かっていないことを指摘され,MnAsSbやMnFePSi化合物の磁性を紹介されるとともに,今後の中性子研究の果たす役割について議論されました.

0127jisei3.png
 沼澤氏は,磁気冷凍技術を比較的高温領域に応用しようとする場合には蓄冷器を援用した冷凍サイクルが不可欠であること,また,磁気冷凍には冷凍サイクルのみならず,磁性体,磁場,ならびに,熱スイッチの技術開発が不可欠であることなど,磁気冷凍の基本について解説されました.

 北澤主査は,水素社会実現のために,効率的に水素を貯蔵・運搬する技術として,水素液化のための磁気冷凍技術が有力な候補として考えられているが,その実現のためには,水素の沸点である約20Kで大きな磁気冷凍能力を有する材料開発が求められていることを指摘され,20K付近で大きな磁気熱量効果を示す希土類金属間化合物Ho5Pd2が,反強磁性体であることを中性子回折法で証明することを試みた結果,Ho5Pd2は単純な反強磁性体ではなく,結晶構造に多くの欠陥を含むことが原因で起きている非常に興味深いクラスターグラスであることを明らかにされた.そして,この知見を置換系に展開して,さらに磁気冷凍性能の高い材料を開発されている現状を紹介されました.

 本研究会では,磁気冷凍技術の開発から最新の磁気冷凍材料研究まで幅広い内容について,この分野のキーパーソンである先生方に講演していただいた結果,予想を大きく上回る64名もの参加者を得て,活発な質疑応答がありました.中性子を活用できる課題も多く,この分野での中性子利用の拡大が期待されます.